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東京地方裁判所 昭和37年(ワ)865号 判決 1963年10月03日

判   決

東京都港区芝新橋七丁目六番地

原告

新橋食品加工有限会社

右代表者代表取締役

樋川潤子

右訴訟代理人弁護士

松井康浩

国本明

栃木県宇都宮市宿郷町九十八番地

被告

有限会社栃食

右代表者代表取締役

見当邦雄

右訴訟代理人弁護士

田沼義男

右当事者間の昭和三七年(ワ)第八六五号特許権、実用新案権、損賠償請求事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

被告は、原告に対して、金八百九十一万四千九百八十二円、および、これに対する昭和三十七年一月一日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え、訴訟費用は、被告の負担とする。この判決は、原告において金百万円の担保を供するときは、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

原告訴訟代理人は、主文第一、第二項同旨の判決ならびに仮執行の宣言を求め、被告訴訟代理人は、「原告の請求は、棄却する。訴訟費用は、原告の負担とする。」との判決を求めた。

第二  原告の主張

(請求の原因等)

原告訴訟代理人は、請求原因等として、次のとおり述べた。

一  (原告の実施権)原告は、昭和二十七年十二月十一日、特許第一九七、一九七号の特許権ならびに、登録第三九〇、六四五号および第三九三、五四七号の各実用新案権(以下、これらを一括して、本件特許権等という。)について、当時その権利者であつた樋川武から、次のような独占的通常実施権(以下、本件実施権という。)の許諾を得た。

内 容 全部

期 間 本件特許権等の在続期間中

地 域 日本国内全域

実施料 無料

二  (被告の侵害行為)被告は、昭和三十五年一月一日から昭和三十六年十二月三十一日までの間に、本件実施権を侵害することを知りまたは、知りえたにかかわらず過失によりこれを知らないで、本件特許権等の技術的範囲に属するアイスパインアツプルを製造し、これを東京都内に営業所を有する協同乳業株式会社、明治乳業株式会社および江崎グリコ株式会社(以下それぞれ協同乳業、明治乳業および江崎グリコという。)に販売し原告の有する本件実施権を侵害した。

三  (損害額)原告は、被告の右侵害行為により、得べかりし利益金八百九十一万四千九百八十二円を失い、同額の損害をこうむつた。すなわち、

(一) 被告が、昭和三十五年一月一日から昭和三十六年十二月三十一日までの間に、協同乳業、明治乳業および江崎グリコに販売したアイスパインアツプルの数量は、別表(一)「被告の販売数量」記載のとおりである。

(二) もし被告の前記右侵害行為がなかつたならば、原告は、被告が協同乳業に販売したと同数のアイスパインアツプルを同会社に、被告が明治乳業および江崎グリコに販売したと同数のアイスパインアツプルを、福田産業株式会社および高島物産株式会社(以下、それぞれ福田産業および高島物産という。)等の問屋を通じて、明治乳業および江崎グリコの販売店等に販売することができたものである。すなわち、原告は、被告の前記侵害行為のあつた期間中、次のとおり、上記の販売が可能なだけの製造能力および販売能力を有していた。

まず、製造能力についていえば、右期間における原告の自家製造余力および委託製造能力は、それぞれ次のとおりである。

(1)自家製造余力

力原告会社の田園調布工場は、昭和三十五年および昭和三十六年を通じて、三三馬力の冷凍能力を有し、一時間にアイスパインアツプル二千個の製造が可能であり、新橋工場は、昭和三十五年一月から三月までは、一〇・五馬力の冷凍能力を有し、一時間に、同じく一千個の製造が可能であり、同年五月から十月までは、三五・五馬力の冷凍能力を有し、一時間に同じく二千個の製造が可能であり、昭和三十六年中は、八七・五馬力の冷凍能力を有し、一時間に同じく四千個の製造が可能であるところ、右両工場において昭和三十五年および昭和三十六年を通じて、一年のうち、十月一カ月は、機械整備のため全休とし、一月は十一日間その他の月は毎月四日間を休日とし(但し、新橋工場では昭和三十五年四月、十一月および十二月は機械増設のため全休し、同年十月は四日の休日を除き稼働)一日の稼働時間を、十一月十二月および一月は八時間、二月は十二時間、三月から九月までは二十時間(但し、新橋工場では、昭和三十五年三月および十月は十二時間)とすれば、原告の製造能力すなわち製造可能の数量は、別表(二)記載のとおり、昭和三十五年が一千五百九十二万四千個、昭和三十六年が二千七百五十五万二千個である。これらの数字から、停電、機械の故障および監督官庁の検査等のための減産を考慮して、その一割を控除しても、その製造能力は、昭和三十五年が一千四百三十三万一千六百個、昭和三十六年が二千四百七十九万六千八百個であり、原告が現実に製造したアイスパインアツプルの数量は、昭和三十五年が一千三百万個、昭和三十六年が一千四百万個であるから、原告の自家製造余力は、昭和三十五年が百三十三万一千六百個、昭和三十六年が一千七十九万六千八百個ということになる。

(2) 委託製造能力

昭和三十五年はアイスパインアツプルのブーム時代であり、当時、東乳食品工業株式会社、五十嵐冷蔵株式会社、東京低温冷蔵株式会社、田中アイス株式会社、杉山産業株式会社および福島ヤクルト株式会社が原告に対してその製造の下請を希望して来ていた状況であつたから、原告の委託製造能力は、ほとんど無制限というべく、被告が昭和三十五年に協同乳業、明治乳業および江崎グリコに販売した合計一千六百万六千二百七十個から同年における原告の自家製造余力分百三十三万一千六百個を差し引いた一千四百六十七万四千六百七十個の製造をこれら業者に委託製造することは十分可能であつた。

次に、販売能力についていえば、原告会社は、昭和三十五年二月一日に協同乳業とアイスパインアツプルの販売契約を結んでおり、もし被告が協同乳業に昭和三十五、三十六年を通じ、八百五十九万四千二百三十個のアイスパインアツプルを販売しなかつたならば、それと同数のアイスパインアツプルを、同期間中に、一個金四円四十銭で協同乳業に販売することができ、また、もし被告が明治乳業および江崎グリコに同期間を通じ、合計九百七十三万四千七百個のアイスパインアツプルを販売しなかつたならば、原告の有力な代理店である福田産業および高島物産等を通じて、右と同期間中に、これと同数のアイスパインアツプルを一個金五円で販売することができた筈である。

(三) 被告が協同乳業、明治乳業および江崎グリコに販売したと同数のアイスパインアツプルを原告が販売することにより原告の得べかりし利益は金八百九十一万四千九百八十二円である。これを詳述すると次のとおりである。

(1) 原告が自家製品を協同乳業以外の者に販売する場合の、アイスパインアツプルの販売原価すなわち、製造原価に販売経費を加算した金額は、高く見積つて、一個金三円九十八銭である(その詳細は別表(三)記載のとおり。)

そのうち、原告の自家製品の製造原価は次の諸経費から構成されるが、一個当り金三円三十六銭である。

(イ) (原料代)二石の原料液を造るのに金九千六百四十九円七十四銭を要するところ(原料代は昭和三十六年中の高値)、それによつて五千二百個の製品をつくることができるから、一個当りの原料代は金一円八十六銭である。

(ロ) (包装材料費)包装材料のうち、袋は一枚金三十三銭であるから、仕入れロスを二パーセントとみても、製品一個当り金三十四銭であり、段ボールは製品五十個入れのもの一枚金十二円五十銭であるから、仕入れロスを一パーセントとみても、製品一個当り金二十七銭であり、段ボール組立て用粘着テープは一巻十八メートルのものが金三十四円二十銭であるが、これで段ボール十個を組み立てることができるから、製品一個当り金五銭となる。したがつて、包装材料費は、合計一個当り金六十六銭である。

(ハ) (水道代等)水道代、電力代、ガス代、重油代、カルシユーム代、薬品代、製造人件費、白衣のクリーニング代および消耗費は、昭和三十五年および昭和三十六年を通じて最も標準的な、昭和三十六年七月における新橋工場の実績を基準にし、同月におけるそれぞれの支払総額をその製造数量二百三万二千六百二十二個で除して製品一個当りの所要費用額を算出すると金六十五銭である。

(ニ) (償却費)冷凍機および器具機材の償却費は、昭和三十六年における償却費総額金二百六十二万六千三百十八円を年間の製造数量一千四百万個で除して計算すると、一個当り金十九銭である。

次に、前記販売経費は、次の運賃、保管料、入出庫料に営業経費を合算したもので、一個当り金六十二銭である。

(イ) (運賃)二トン車一台で一日平均九万個のアイスパインアツプルを運搬しうるところ、それに要する費用がガソリン代金千円、人件費金二千円、自動車修理代金五百円、同償却費金千円、ドライアイス代金二千五百円合計金七千円であるから、運賃は、製品一個当り金八銭となり、同一製品を二回運搬する必要がある場合も考慮し、種々のロスを見込んでも、一個当り金二十銭である。

(ロ) (保管料)、営業冷蔵庫一立坪が一カ月間で金三千二百円であるところ、それには平均二万五千個のアイスパインアツプルを貯蔵することができるから、保管料は、製品一個当り一カ月間金十三銭となるが、一カ月以上貯蔵することを考慮すれば、製品一個当り金十五銭である。

(ハ) (入出庫料)入出庫料は、一箱(五十個入り)につき金二円五十銭であるから、製品一個当り金五銭である。

(ニ) (営業経費)営業経費は、昭和三十六年における総額金三百万円を年間の製造数量一千四百万個で除して計算すると、一個当り金二十二銭である。

(2) 原告が自家製品を協同乳業に販売する場合には、原告の工場より直納できるので、その販売原価は高く見積つて、右金三円九十八銭から保管料および入出庫料合計金二十銭を控除した金三円七十八銭である。

(3) 原告が委託製品を協同乳業に販売する場合の販売原価は仕入単価が金四円であり、製造委託先の工場から協同乳業までの運賃その他の販売経費が一個当り金十銭であるから合計金四円十銭である。

(4) 原告が委託製品を協同乳業以外の者に販売する場合の販売原価は、仕入単価が金四円であり、運賃、保管料、入出庫料、および、その販売経費が一個当りそれぞれ金二十銭、金十五銭および金十銭であるから合計金四円五十銭である。

(5) したがつて、製品一個当りの販売利益は、別表記載のとおりである。

(6) しかして、昭和三十五年における製造販売可能数量一千六百万六千二百七十個については、自家製造が可能な百三十三万一千六百個をすべて協合乳業に販売し、委託製造が可能な一千四百六十七万四千六百七十個のうち、六百四十三万九千九百七十個を協同乳業に、八百二十三万四千七百個を協同乳業以外の者に販売する場合が最も利益が少くなるので、この計算方法によれば、昭和三十五年における原告の得べかりし利益は金六百八十七万四千九百三十三円であり、昭和三十六年における製造販売可能数量二百三十二万二千六百六十個については、そのすべてが自家製造が可能であるから、昭和三十六年における原告の得べかりし利益は金二百四万四十九円である(その詳細は別表(五)記載のとおり。)。

四  よつて、原告は、被告に対し、右損害金八百九十一万四千九百八十二円およびこれに対する最後の不法行為のあつた日の翌日である昭和三十七年一月一日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

五  (被告の主張に対する主張)(一)被告主張二の事実のうち、本件実施権につき原告が被告に譲渡した販売地域が栃木県、群馬県および福島県のほか、被告の特別取引関係にある個所をも含むことは否認する。その地域は、右三県、および、その県境周辺に限られていたものである。その余の事実は認める。(二)仮に、本件実施権に関する昭和三十四年八月十日付原告間の契約により被告に譲渡された範囲が被告主張のとおりであるとしても、右契約の効力は、昭和三十五年十二月十三日、期限の到来により消滅した。すなわち、右契約締結当時、東邦乳業有限会社から本件第一九七、一九七号特許につき無効審判の請求があつたので、原告および被告は、右契約の終期をこの審判が確定するまでと定めたところ、特許庁は昭和三十五年十月三十一日、東邦乳業有限会社の審判請求を却下し、これが同年十二月十三日に確定し、右契約は、同日限り終了したので、原告は、その翌日である昭和三十五年十二月十四日以後被告の侵害行為により生じた損害の賠償請求する。

第三  被告の主張

(答弁等)

被告訴訟代理人は、答弁等として、次のとおり述べた。

一  請求原因一の事実のうち、昭和二十七年十二月十一日当時本件特許権等の権利者が樋川武であつたことは認めるが、その余の事実は知らない。

二  同じく二の事実のうち、故意過失の点は否認し、その余の事実は認める。

三  同じく三および四の事実は争う。

四  仮に原告が本件特許権等に対し独占的通常実施権を有するとしても、被告は、昭和三十四年八月十日、当時本件特許権等の権利者であつた樋川潤子(昭和三十三年十月一日、相続により本件特許権等を取得)の承諾のもとに、原告から、本件実施のうち、栃木県、群馬県および福島県ならびに被告が従来から特別の取引関係にある協同乳業、明治乳業および江崎グリコに対する製造販売権を譲り受けた。したがつて、被告の協同乳業等への販売行為は、原告の本件実施権を侵害するものではない。なお、右地域的製造販売権の譲渡契約が期限の到来により消滅した旨の原告の主張事実は否認する。

第四  証拠関係≪省略≫

理由

(被告の侵害行為)

一、樋川武が昭和二十七年十二月十一日当時、本件特許権等の権利者であつたこと、および、被告が、昭和三十五年一月一日から昭和三十六年十二月三十一日までの間、本件特許権等の技術的範囲に属するアイスパインアツプルを製造し、これを東京都内に営業所を有する協同乳業、明治乳業および江崎グリコに販売したことは当事者間に争いがなく、原告会社代表者の本人尋問の結果(第一、二回)によれば、原告が昭和二十七年十二月十一日、本件特許権等について樋川武から原告主張のような内容の通常実施権の許諾を得たことが認められ、他にこれを覆えすに足る証拠はない。

しかして、被告が昭和三十四年八月十日、当時本件特許権等の権利者であつた樋川潤子(昭和三十三年十月一日相続により本件特許権等を取得。)の承諾のもとに、原告から、地域を限つて(その範囲の点を除く。)本件実施権の一部を譲り受けたことは当事者間に争いがない。被告は、昭和三十四年八月十日原告から本件実施権のうち被告が従来から特別の取引関係にあつた協同乳業、明治乳業および江崎グリコに対しアイスパインアツプルを製造販売する権利を譲り受けた旨主張するが、証人(省略)および被告会社代表者の各供述中被告の右主張に副う部分は、証人(省略)および原告会社代表者の本人尋問の結果(第一回)と比較して、にわかに措信し難く、他に被告の右主張事実を認めるに足る証拠はない。

したがつて、他に特段の主張も立証もない本件においては、被告が前記のとおり、協同乳業等に対してアイスパインアツプルを販売したことは原告の本件実施権を侵害したものといわなければならない。

(被告の故意過失)

二、被告が本件実施権のうち協同乳業等に対しアイスパインアツプルを製造販売する権利を原告から譲り受けた事実の認めがたいこと前説示のとおりであり、しかも、(証拠―省略)によれば、原告会社は、すでに昭和三十四年十月頃、被告に対し、被告の前記販売行為の中止方を申し入れたことが認められるから、被告は当時協同乳業等に対しアイスパインアツプルを製造販売することが原告の本件実施権を侵害するものであることを知つていたか、または、知らなかつたとしても、これを知らなかつたことにつき過失があつたものというべきであり、他に、これを覆えすに足る証拠はない。

(被告の販売数量、原告の製造販売能力)

三、(証拠―省略)を総合すれば

(一)、被告が、協同乳業に対し、昭和三十五年には七百七十七万一千五百七十個のアイスパインアツプルを単価金四円三十五銭で昭和三十六年には八十二万二千六百六十個を単価金四円五十銭で、それぞれ販売し、明治乳業に対し昭和三十五年に七百三十三万四千七百個を単価金四円六十銭で販売し、江崎グリコに対し、昭和三十五年には九十万二千八百九十個を単価金四円六十銭で、昭和三十六年には三十万個を単価金四円三十五銭で、七十万個を単価金四百五十銭で、五十万三千五百六十個を単価金四円六十銭で、それぞれ販売したこと、

(二)  原告は田園調布および新橋にアイスパインアツプルの製造工場を有しているが、これらの工場の冷凍能力および一時間当りのアイスパインアツプルの製造能力は、原告主張のとおりであり、これらの工場において原告主張のとおり稼働することは可能であるから、停電、機械の故障および監督官庁の検査等のため減産として一割を控除しても、原告の自家製造能力は、昭和三十五年が一千四百三十三万一千六百個、昭和三十六年が二千四百七十九万六千八百個というべきところ、原告は昭和三十五年には一千三百万個、昭和三十六年には一千四百万個のアイスパインアツプルを製造販売したから、昭和三十五年における原告の自家製造余力は百三十三万一千六百個であり、昭和三十六年におけるそれは一千七十九万六千九百個であること、

(三)  アイスパインアツプルは昭和三十四年末ころから業界の注目をひき、昭和三十五年にはそのブームを巻き起し、当時東乳食品工業、五十嵐冷蔵、東京低温冷蔵、田中アイス、福島ヤクルトの各株式会社が、原告に対してアイスパインアツプルの製造の下請を希望していた実情であり、原告が昭和三十五年に一千四百六十七万四千六百七十個の製造を委託することは可能であつたこと、

(四) 原告は本件実施権のうち東京都および神奈川県を対象とする部分は他に譲渡せず、昭和三十五年および昭和三十六年当時、右地域において、全く独占的地位にあり、その製造するアイスパインアツプルを協同乳業に対し単価金四円四十銭で福田産業および高島物産に対し単価金五円二十銭で販売していたが、福田産業は東京都内に百二十ないし百六十の特約店を有し、昭和三十五年には九百万個のアイパインアツプルを販売する計画をたて高島物産は東京都内に八十四、神奈川県下に六十九の特約店を有し、昭和三十五年には一千万個のアイスパインアツプルを販売する計画をたてて、それぞれその準備を進め、両会社とも、少なくとも、右数量のアイスパインアツプルを原告から購入のうえ、特約店を通じて、販売しうる状態にあつたこと、

(五) しかるに、昭和三十四年末ころから被告の製造したアイスパインアツプルが協同乳業、明治乳業および江崎グリコを通じて東京都内およびその周辺都市に大量に出廻り、原告の販売価額および販売系統の維持に支障を生じ、原告の協同乳業福田産業および高島物産に対する販売は、当初の予想を大きく下廻るに至つたこと、

を認定しうべく、他にこれを左右するに足る証拠はない。しかして右認定の事実によればもし被告の侵害行為がなかつたら、原告は、協同乳業に対し昭和三十五年には被告が協同乳業に販売したと同数の七百七十七万一千五百七十個を、昭和三十六年には同じく八十二万二千六百六十個を、いずれも単価金四円四十銭で販売することができ、福田産業および高島物産に対し昭和三十五年には被告が明治乳業および江崎グリコに販売した数量より少ない八百二十三万四千七百個を昭和三十六年には同じく百五十万個を少くとも単価金五円で販売することができたものということができ、これを覆すに足る証拠はない。

(原告の販売原価、得べかりし利益)

四 (証拠―省略)によれば、昭和三十六年における原告のアイスパイスアツプルの各種販売経費は一般に昭和三十五年におけるそれより高いところ、昭和三十六年における各種販売経費は、次のとおりであること、すなわち、アイスパインアツプル一個当りの原料代および包装材料費は原告主張のとおりであること、水道代、電力代、ガス代、重油代カルシユーム代、薬品代、製造人件費、白衣のクリーニング代および消耗費については、昭和三十六年七月における新橋工場のそれが昭和三十五年および昭和三十六年を通じて最も標準的であるところ、昭和三十六年七月における新橋工場の水道代等の総額は金三十七万一千五百二十四円であり、同月におけるアイスパインアツプルの製造数量は二百三万二千六百二十二個であるから、製品一個当りの右水道代等は金六十五銭であること、昭和三十六年における冷凍機および器具機材の償却費は金二百六十二万六千三百十八円であり、同年におけるアイパインンアツプルの製造数量が一千四百万個であることは前認定のとおりであるから、製品一個当りの償却費は金十九円であること、二トン車一台で一日平均九万個のアイスパインアツプルを運搬しうるが、それに必要な経費は金七千円であるから、製品一個当りの運搬費は高く見積つて、金二十銭であること、営業冷蔵庫の使用料は一立坪につき一カ月間で金三千三百円であるが、一立坪には平均二万五千個のアイスパインアツプルを貯蔵しうるから製品一個当りの保管料は金十五銭であること、アイスパインアツプル一箱(五十個入り)の入出庫料は金二円五十銭であるから、製品一個当りの入出庫料は金五銭であること、昭和三十六年における営業経費の総額は金三百万円であり、同年におけるアイスパインアツプルの製造数量が一千四百万個であることは前認定のとおりであるから、製品一個当りの販売経費は金二十二銭であること、原告が協同乳業に販売する場合には原告の工場または製造委託先の工場から直納できるので、保管料および入出庫料は必要ないこと、原告の委託製品の仕入単価は金四円であること、委託製品を協同乳業に販売する場合の販売経費は金十銭であり、協同乳業以外の者に販売する場合のそれは金五十銭であること、したがつて、原告が自家製品を協同乳業に販売する場合の販売原価は、高く見積つて、金三円七十八銭であり、自家製品を福田産業および高島物産に販売する場合の販売原価は、高く見積つて、金三円九十八銭であり、委託製品を協同乳業に販売する場合の販売原価は、高く見積つて、金四円十銭であり、委託製品を、福田産業および高島物産に販売する場合の販売原価は、高く見積つて、金四円五十銭であるから、製品一個当りの販売利益は別表(四)記載のとおりであることが認められ、それを覆えすに足りる証拠はない。

しかして、昭和三十五年において自家製造が可能な百三十三万一千六百個は、これをすべて協同乳業に販売する場合が、最も利益が少い場合となるので、これを基準として計算すると、昭和三十五年における原告の得べかりし利益は、少くとも金六百八十七万四千九百三十三円であり、昭和三十六年における製造販売可能数量二百三十二万二千六百六十個についてはそのすべてが自家製造可能であるから、昭和三十六年における原告の得べかりし利益は、金二百四万四十九円である(その詳細は別表記載のとおり。)。

したがつて、原告は、被告の前記侵害行為により、その得べかりし利益金八百九十一万四千九百八十二円を失い、同額の損害をこうむつたものということができる。

(むすび)

五 以上説示のとおりであるから、被告は原告に対して前記認定の侵害行為による損害金八百九十一万四千九百八十二円およびこれに対する最後の不法行為のあつた日の翌日である昭和三十七年一月一日から支払いずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があるものといわなければならない。

したがつて、原告の請求は、すべて理由があるものということができるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を、仮執行の宣言につき同法第百九十六条を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第二十九部

裁判長裁判官 三 宅 正 雄

裁判官 白 川 芳 澄

裁判官 佐久間 重 吉

別表(一) 被告の販売数量 (単位・個)

年度

協同乳業

明治乳業

江崎グリコ

合計

35

7,771,570

7,334,700

900,000

16,006,270

36

822,660

0

1,500,000

2,322,660

8,594,230

7,334,700

2,400,000

18,328,930

別表(二)

35,36年度田園調布工場月別製造高内訳

35,36年度新橋工場月別製造高内訳

35年

毎時

能力

日数

1日の

製造

時間

出来高

備考

毎時

能力

日数

1日の

製造

時間

出来高

備考

月別

1

2,000

20

8

320,000

1,000

20

8

160,000

2

2,000

24

12

576,000

1,000

24

12

288,000

3

2,000

27

20

1,080,000

1,000

27

12

324,400

4

2,000

26

20

1,040,000

工場増設の為休み

5

2,000

27

20

1,080,000

2,000

27

20

1,080,000

6

2,000

26

20

1,040,000

2,000

26

20

1,040,000

7

2,000

27

20

1,080,000

2,000

27

20

1,080,000

8

2,000

27

20

1,080,000

2,000

27

20

1,080,000

9

2,000

26

20

1,040,000

2,000

26

20

1,040,000

10

27

0

工場の整備に当てる

2,000

27

12

648,000

11

2,000

26

8

416,000

工場増設の為休み

12

2,000

27

8

432,000

9,184,000

6,740,000

36年

2,000

20

8

320,000

4,000

20

8

64,000

1

2

2,000

24

12

576,000

4,000

24

12

1,152,000

3

2,000

27

20

1,080,000

4,000

27

20

2,160,000

4

2,000

26

20

1,040,000

4,000

26

20

2,080,000

5

2,000

27

20

1,080,000

4,000

27

20

2,160,000

6

2,000

26

20

1,040,000

4,000

26

20

2,080,000

7

2,000

27

20

1,080,000

4,000

27

20

2,160,000

8

2,000

27

20

1,080,000

4,000

27

20

2,160,000

9

2,000

26

20

1,040,000

4,000

26

20

2,080,000

10

工場の整備に当てる

工場の整備に当てる

11

2,000

26

8

416,000

4,000

26

8

832,000

12

2,000

27

8

432,000

4,000

27

8

864,000

9,184,000

18,368,000

合計

18,368,000

25,108,000

43,476,000ヶ

別表(三) アイスパイン原価計算表 (昭和36年表)

別表(四)

製造内訳

納入先

販売価額

販売原価

利益

自家製品

協同乳業

それ以外の者

4円40銭

5円

3円78銭

3円98銭

62銭

1円2銭

委託製品

協同乳業

それ以外の者

4円40銭

5円

4円10銭

4円50銭

30銭

50銭

別紙(五) 利益明細

年度

製造可能

数量

製造内訳

販売内訳

1個当り

利益

利益合計

35

16,006,270

自家   1,331,600

協乳 1,331,600

62銭

825,592円

問屋      0

委託   14,674,670

協乳 6,439,970

30銭

1,931,991円

問屋 8,234,700

50銭

4,117,350円

36

2,322,660

自家   2,322,660

協乳  822,660

62銭

510,049円

問屋 1,500,000

102銭

1,530,000円

委託        0

0

0

0

利益総計 8,914,982円

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